(メモ)東海第二原発のフィルター付きベント設備は安全協定の対象?

東海村などをキーワードに検索していたところ、あるツイートがありました。
そこには、東海第二原発のフィルター付きベント設備は、安全協定の「新設」にあたるので、事前に自治体の了解が必要だという趣旨のことを書かれていました。


しかし、東海村は、フィルター付きベント設備の工事について、抗議文を提出しただけで協定に違反するとは言っていません。
もし、事前協議の対象ならば、それを指摘しない茨城県東海村東海村長、日本共産党は無能ということになってしまうため、検索して自分なりに調べてみました。


その結果、以下に引用する毎日新聞共産党ウェブに書かれているように、工事を開始した時点(6月)では、安全協定の事前協議の対象に含まないとしても良いようです。

http://mainichi.jp/area/ibaraki/news/20130620ddlk08010123000c.html 原発規制基準:新基準決定 東海第2原発、原電着工に反発 周辺自治体「再稼働ありきでは」 /茨城− 毎日jp(毎日新聞)
県によると、原電と周辺自治体が結ぶ「原子力安全協定」ではベント装置の設置などについては事前了解を得る必要はないという。

http://ibjcp.gr.jp/?p=2453 東海第2原発 「再稼働前提の工事だ」 ベント・防潮堤着工 党茨城県委 原電に中止・廃炉要請 | 日本共産党 茨城県委員会
原電側は、「工事は自主的なもので今年度の計画に入っていた。新設工事に該当しない」などと説明。
原子炉等規制法改定に伴う新規制基準の決定で、自治体との安全協定上の手続きが発生するのが7月8日以降となることから、参加者らは「(再稼働に必要な工事の)県や村の事前了解を免れるためだったのではないか」と“駆け込み着工”を批判しました。

以下に、調べた経過を記録しておきます。ただし細かく説明するだけの能力は私には有りませんし、一部の資料は載せていないので、読んでも意味不明だと思います。
興味の有る方は、ご自分で資料を集めて検討してみてください。行政者が(良くも悪くも)いかにややっこしい仕事をしているかということと、行政文書を一般常識で解読してはいけないということが、身にしみてわかるかと思います。
もし間違いがあれば、ご指摘ください。

原子力安全協定を探す

原子力安全協定」の正式名称(原子力施設周辺の安全確保及び環境保全に関する協定)でグーグル検索すれば、すぐに見つけられます。
ひな形ですし、原発によって内容は違うようですが、茨城県原発は東海第二原発だけなので、これで問題ないでしょう。
事前了解(事前協議)に関わる文章は第5条です。
http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/seikan/gentai/nuclear/topic/koho/gyousei09.pdf

( ここで、甲は茨城県、乙は東海村、丙は隣接する市町村、丁は日本原子力発電株式会社です )


これだけを読んだなら、事前協議の対象になりそうです。
でも。


協定の意味(言葉の定義)を探す

こういう法令類は、言葉の定義が常識とは違っていることが多いので、一般常識だけで読み解いてはいけません。
(例えば、原子力施設という言葉にも定義があって、条文によって指し示すところが微妙に違うことがある)


通常、こういった行政文書には、 意味や意図するところの解説や、Q & A みたいな文書があります。
それを元に定義や解釈をしていきます。


ただし、私の見た文書は一般公開を予期していなかったようで、公表してよいのかどうか判断ができなかったので、ここには上げられません。
必要な方は、東海村茨城県に情報開示請求するほか、東海村の図書館(資料館?)に有ると思いますし、地元で原発関連の市民活動をされている方は持っていると思うのて、見せてもらってください。

意味を読み解く

(ここ、一番肝心な所を、はしょって書いています。資料を提示できないうえ、解釈も複雑で、私には説明しきれないためなので、ご了承ください。正直、解釈に自信はありません)


日本ではフィルター付きベント設備は設置義務の無い機能とされていました。そのため、それらの文書には、その言葉も、似たような言葉も出てきません。
フィルター付きベント装置を含められそうな項目は「その他原子炉の附属施設」になりそうです。


そして、「その他原子炉の附属施設」は、原子炉の許可申請時に設置許可申請書に記載する必要があります。


しかし、改正前の原子炉等規制法では、設置許可申請書に記載する「その他原子炉の附属施設」の対象として、ベント設備(のような機能)は含まれていませんでした。
(第四十三条の三の五の2項の十が追加される前だった)


結論として

したがって、フィルター付きベント設備は事業者が任意で(勝手に)設置するものなので、安全協定でいう新設の対象物には当たらないということになるかと思います。


ちょっと話をずらしますが、解説文書を読むと、原子力施設の種類(発電用原子炉施設、燃料加工施設、廃棄物埋設施設など)によって「新設」とする基準が違います(これは、安全協定だけを読んでいてはわかりません)。
仮に、ある原子力施設で新設になる設備であったとしても、他の原子力施設では新設にならないこともありそうです。
あるブログで、この辺りをゴッチャにしてベント設備を新設だとしていましたが、筋道が違うと思います。解説する文書の存在はご存知のようですので、分かっていて意図的に書いているような気もしますが。

話がそれましたので、戻します。



た だ し

ただし、ここまで書いてきたのは、改正前の規制基準での解釈です。
新しい規制基準には「格納容器破損防止対策」という項目が新設され(第50条)、ここにフィルター付きベント設備は含まれます。
したがって、新しい規制基準ならば、設置許可申請書に記載する必要がありますので、安全協定の「施設の新設」に該当し、事前了解の必要のある工事になるはずです。
http://www.nsr.go.jp/committee/kisei/data/0013_08.pdf
実用発電用原子炉に係る新規制基準について−概要−平成25年7月 原子力規制委員会

(原子炉格納容器の過圧破損を防止するための設備)
第五十条 発電用原子炉施設には、炉心の著しい損傷が発生した場合において原子炉格納容器の破損を防止するため、原子炉格納容器内の圧力及び温度を低下させるために必要な設備を設けなければならない。


「原子炉等規制法」の改正
 http://www.nsr.go.jp/committee/yuushikisya/shin_seidoseibi/data/0001_04.pdf


新基準の運用開始日

新しい規制基準の運用開始は7月8日ですが、その解釈を通知する文書は6月19日に出ています。(基準自体の通知は6月28日付)
東海第二原発工事開始は6月18日でした。
たまたまだとは思えないですね。


(「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」の制定について )http://www.nsr.go.jp/nra/kettei/data/20130628_jitsuyounaiki01.pdf

http://mainichi.jp/area/ibaraki/news/20130620ddlk08010123000c.html 原発規制基準:新基準決定 東海第2原発、原電着工に反発 周辺自治体「再稼働ありきでは」 /茨城− 毎日jp(毎日新聞)
日本原子力発電は19日、フィルター付きベント装置と防潮堤の設置工事に18日に着工したと発表した。19日は国の原子力規制委員会原発の新しい規制基準を正式決定し、再稼働にはフィルター付きベント装置の設置などが義務付けられた。

他の地域の安全協定

安全協定は自治体ごとに定められるため内容は異なります。
東海第二原発では、「原子力施設及びこれと密接な関連を有する施設を新設し,」となっています。
柏崎刈羽原子力発電所志賀原子力発電所では、対象物を「原子力発電施設及びこれと関連する施設等の新増設」としています。
解釈にも幅がとれそうですから、他の地域での対応を、そのまま東海第二原発に適用してはいけないようです。
http://homepage3.nifty.com/ksueda/kusanone1308.html フィルターベント工事に安全協定事前了解のチェックを


参考リンクなど。

「原子炉等規制法」とは、正式名称「核原料物質、核燃料物質および原子炉の規制に関する法律」のこと。
「炉規法」と略されることも有る。
平成24年に大きく改正され、「原子炉」を「試験研究用等原子炉」と「発電用原子炉」に分けた。前者に関する規制を第4章第一節(第二十三条〜第四十三条の三の四) に、また、後者に関する規制を第二節(第四十三条の三の五〜第四十三条の三の三十三) として規定した。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=10-07-01-04 原子炉等規制法(平成24年改正前) (10-07-01-04) - ATOMICA -
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=10-07-01-05 原子炉等規制法(平成24年改正)の概要 (10-07-01-05) - ATOMICA -
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S32/S32HO166.html#1000000000004000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律
制定当時の解説文 http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/ugoki/geppou/V02/N07/195716V02N07.HTML 昭和32年 原子力委員会月報2(7) 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律解説


http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H25/H25F31901000005.html 実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H25/H25F31901000006.html 実用発電用原子炉及びその附属施設の技術基準に関する規則

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_Key=11-01-05-01 自治体と原子力事業所との安全協定 (11-01-05-01) - ATOMICA -