武田教授のDVD対談 (1ミリシーベルトは危険ではない)

去年の12月に発売された DVD に武田邦彦教授の対談が収録されているそうです。その内容が、これまで世間で信じられていたことと違う(誤解させられていた)として、一部で話題になっているようです。

DVD の書き起こしを読んだ人の反応

http://togetter.com/li/239729  武田邦彦先生・・・私悲しいです。

ええええ(・_・;?? 武田教授 「一年1ミリシーベルトは健康の問題ではない。約束の問題だ。一年1ミリシーベルトで行こうと約束しちゃったんだから仕方がない。」

『武田 「原理的な話はもう十分に分かってるし、もう学問的に仮説の領域は通り過ぎていますよ。それはもう、放射線は当たった方がいいに決まってる。」』なんじゃこれ。

あと、あれだけブログや講演会で、「年間1ミリ以上は絶対に許してはいけない」と散々言っていたのに、「年5ミリまでは安全だ」と言い始めた事。 これが悲しかった点です。

DVD を書き起こしているブログ

(強調は私が勝手につけたものです)

http://blog.goo.ne.jp/osato512/e/64787c2e17160b272bd520f518f402f1 武田教授は1ミリシーベルトは危険ではないと言っていた - 杜の里から


子を持つ親達から絶大なる支持を得てきた武田教授ですが、ここではそれまでの彼の主張が実は大きく誤解されていたという事がはっきりしましたので、これはやはり広く紹介しておいた方が良いのではと考えた次第です。
(略)
「極端に安全という人もいれば危険という人もおり、ICRPは両方の意見を見て程々の所、それもかなり安全側に寄って勧告を出している。」
という中村氏の意見に、今度は武田教授も同意するという事になります。
(略)
武田 「誤解しないで頂きたいんですが、放射線を被曝することによって、その線量によっては当然、生体に対していい影響を及ぼすと思ってます。」
(略)
武田 「僕は今、一年2ミリシーベルトの表って出してるんです、具体的なの。野菜はこれ食べていい、牛乳はいけない、卵はいいって出してるんです。それは何でかったら、合計2ミリシーベルト
それはどうしてかというとね、僕は5ミリシーベルトまでは危険という事はないんだ。だから1ミリシーベルトは望ましい被ばくで、5ミリシーベルトまではまず安全と考えていいので、お母さんは1から5の間に入るように努力して下さい。
(中略)
 それは病室でも、子供でも5ミリシーベルトまでは医者が診て使ってる訳ですよ。ですから大体5ミリシーベルトぐらいは今までの歴史からいって大丈夫だという事は分かってます。」
(1:05分)
武田 「一年1ミリシーベルトは健康の問題ではない。約束の問題だ。一年1ミリシーベルトで行こうと約束しちゃったんだから仕方がない。」


ブログを読みながら「これって前から武田教授は言っていたよなぁ」と感じて、過去の自分の記事を読み直してみたら、ここで記事にしていましたが、追記の連続で読みにくいので、抜粋し追記等してみました。
なお、ここに取り上げているのは昨年の7月ごろまでに集めたものです。

放射線の良い影響(ホルミンシス効果)について

放射線ホルミシス効果とは、「低線量の放射線を浴びることは健康にプラスを働きをする」というものです。

http://takedanet.com/2011/06/post_64b4.html 武田邦彦 (中部大学): 健康をどのようにして回復するか(1) ラドン温泉の効用(平成23年6月27日 午前10時 執筆)
つまり、ラドン温泉の効用は、
1) 普段、低い放射線を受けていて、少しのガンが体にできる、
2) それを除くために少ない「ガン退治化合物」が体内に出来ている、
3) でも、日常生活を送っている時には、体内の「ガン退治化合物」はそれほど多くない、
4) そこで、時々、放射線の高いラドン温泉とかラジウム温泉に行く、
5) そうすると、そこで放射線あびるので、体がビックリして「ガン退治化合物」を急に作って体を守ろうとする、
6) ラドン温泉に2,3日浸かり、体を騙してガン退治化合物を増やし、それから日常の生活に戻る、
7) 日常の生活ではあまりガンが出来ないので、余ったガン退治化合物が体の中のガンをすっかり退治してくれる
と言う仕組みと考えられます.

http://takedanet.com/2009/05/post_dbf8.html 武田邦彦 (中部大学): インフルエンザとはなにか? (4)(平成21年5月5日 執筆)
どうしてこんなに放射線が安全かというと,もともとは危険なので,防御機構が発達するからであり,なぜ防御機構が発達しているかというと太陽が原子炉で,そこから有害な放射線が降ってきた時代に,生物は頑丈な防御を作ったからである.
原始的な生物の一つ,大腸菌ですら放射線に対して5段階の防御を持っていて,容易にはやられない.まして高等動物中の高等動物である人間は,ものすごく精密な防御システムを持っている.
だから,容易なことでは放射線で障害を受けない
.むしろ,あまりに複雑なので,長く使わないとリストラされる。むしろ,免疫と同じだから,少しは放射線を浴びておいた方が「異物を取り除く体の中の自衛隊」を育てておくことができる.


なお、ホルミンシスについて知りたい人は、以下リンクなどをご参照ください。
新聞に載って非難された加納時男さんの発言。
http://www.asyura2.com/09/dispute30/msg/426.html 「低線量放射線体にいい」加納時男東電顧問(朝日5/5)
ホルミンシスについてのブログなど
http://criepi.denken.or.jp/research/review/No53/index.html 低線量放射線の影響の 正しい理解へ向けて
http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/cobalt_apartment.html コバルト60が鉄筋に混入したアパート住民の健康影響調査 ― 放射線安全研究センター ―
http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09020103/03.gif
http://www.nagaoclinic.or.jp/doctorblog/nagao/2011/05/post-1544.html 放射線ホルミシス|Dr.和の町医者日記
http://blogs.yahoo.co.jp/mozugoe/3435798.html 少量の放射能は怖くない、百薬の長にもなる
他にも「放射線ホルミシス」「放射線ホルミンシス」で検索するとさまざまな情報が見つかります。

年間5ミリシーベルトにかかわる発言

5月16日 武田邦彦教授講演会より
http://togetter.com/li/136395
武田「第一目標は1年1ミリ、第二目標は健康や栄養バランスに気を付けていれば5.2ミリまでほぼ大丈夫なんです」
武田「2.4mSVまでなら、自分で修復できる。健康で壮健な大人なら6msv。」「世界基準はあてにならない、肌の色も違う」

見ていた方がリアルタイムで打ち込んだものなので、間違いがあるのかもしれませんが、健康な大人なら6mSv/y(5.2mSv/y) まで問題ない(自己修復できるのでガンにならない)との認識のようです。
2.4mSv/yというのは、自然放射能1.4に公衆被曝限度の1を足したものでしょう。
5.2mSv/y というのは、放射線管理区域(3ヶ月で1.3ミリシーベルト)から算出した値のようです。この数字もガン等になるどうかで設定された値ではないので、健康被害というより制度に重きを置いて考えておられるようです。

http://takedanet.com/2011/03/post_ac85.html 武田邦彦 (中部大学): ご質問と回答(平成23年3月31日午後10時 執筆)
人工的な放射線がプラスされる場合、通常の人の場合には、5ミリシーベルトから10ミリシーベルトまで大丈夫なのですが、赤ちゃんや免疫が少し弱い人等がおられますので、安全を見て世界的な基準が低くなっています.

http://takedanet.com/2011/05/post_675c.html 武田邦彦 (中部大学): 短い情報・・・杉並の放射線平成23年5月30日 午前10時 執筆)
これに対して、ビルの屋上は6マイクロ(毎時、これは1年に53ミリにあたる)もあったようです。健康に注意するという条件での上限が1時間0.6マイクロですから、その10倍もあります。

0.6マイクロ × 24時間 × 365日=5.25 ミリシーベルト

年間1ミリシーベルトにかかわる発言

http://takedanet.com/2011/04/post_0ebb-1.html 武田邦彦 (中部大学): 原発 毎日のこと 被ばくは取り返せる
平成23年4月20日 午後10時 執筆)
たとえば、胸のレントゲンを1回、受けると50マイクロシーベルトの被ばくをします。医療の被ばくは別計算ですが、体の方は、0.11マイクロシーベルト(1時間あたり)なら回復しますから、15日で胸のレントゲンは忘れてもよいという状態になります.

0.11μSv/h という数字は何だろう? と思いましたが、これは、0.11 × 24(時間)×365(日)=963.6μSv/y ≒ 1mSv/y という意味ですね。
1mSv/y なら自然回復する(ガンにならない)という認識なのでしょう。

http://takedanet.com/2011/04/63_6329.html 武田邦彦 (中部大学): 原発 緊急情報(63) いろいろな問題と考え方
平成23年4月24日 午後1時 執筆)
これをわかりやすい言葉で言えば、「1年間に100ミリの場合、10万人の子供あたり500人がガンになる」という事です。
この数値が大きいか小さいかは人によって違うのですが、これまでの考え方は、「10万人に5人ぐらいなら我慢ができる」ということで限度を1ミリにしてありました。

(武田教授は“ガン患者”が出ると書いていますが、この数字は大人も含めた“ガンによる死者の増加数”の間違いですね。また、100ミリでの死者数を単純に割って1ミリでの数字を出すという武田教授のような計算はしてはいけないと、IRCP は警告しています)

http://takedanet.com/2011/05/110510_9f92.html 武田邦彦 (中部大学): 科学者の日記110510 日々、変わっていくこと(平成23年5月10日 午前10時 執筆)
その意味で放射線による被爆と人体への影響ということを考えるときに、現在の知見(正しいこと)は、1年に1ミリシーベルトを浴びるとかなりのがん患者が出るということであり、また将来はそれが「さらに厳しくなるか、または緩和されるか」は判らないということです。

http://takedanet.com/2011/05/110511_b1ad.html 武田邦彦 (中部大学): 科学者の日記110511 放射線と体
平成23年5月11日 午前8時 執筆)
一方、 人間は、自然からのストレスに対して抵抗力で直すことができますが、そのレベルは人間の集団が生きてきた環境に依存します.
この場合は、自然放射線が1年に1.4ミリシーベルトとですので、数ミリシーベルトまでは修復が可能と思います. (略)
これらのことを総合してみると、現在ではやはり国際放射線防護委員会が定めた。1年1ミリの基準を安全として見ることが最も適切あるという結論になります。

この辺りを見ると、年間1ミリシーベルトというのは、あくまで、国際放射線防護委員会がそのように定めたから、年間1ミリシーベルトを守れと言っているだけですね。


まとめると、健康な大人なら年間5ミリシーベルトまで影響は無いけれど、乳幼児を含めると年間1ミリシーベルトでも10万人に5人にガンが発生する(本当は死亡する)という認識のようです。
そして、年間1ミリシーベルトというのが国際放射線防護委員会(ICRP)の基準なのだから、それを守れというだけで、超えたからといって健康被害が起きるとは言っていません(というか、1ミリ以下でも被害はおきると考えておられます)。
DVD で言っていることと違いは無さそうです。
そういえばガレキや花火について言及したときも、法令で規制されているから運搬しないよう述べていただけで、健康被害が起こるかどうかについては何も言っていなかったと思います。


東電原発事故までは放射線による健康障害については全く知らなかったであろうに、5月ごろには見解が固まっていたというのは、たいしたものだと思います。
武田教授を擁護するようなエントリーになってしまって、少々、不本意ですが、いたし方ありません。
武田教授によって年間1ミリシーベルト以上は危険だと思い込んでしまった人は、武田教授は、あなたに、そういう誤解を引き起こすように計算して書く人だと認識しておいたほうがいいでしょう。(他の場所では異なる見解を述べていたのであれば別ですが)

関連リンク

http://togetter.com/li/240224 「震災文化人」の"フクシマ商法"に苦しめられる福島からの声

以前に書いたエントリーから転記

http://d.hatena.ne.jp/hyakubann/20110702#p1 
2010/08/27の武田邦彦さんのエネルギーに関するラジオ番組がありました。
バリバリの原発推進派としての発言も興味深いですが、太陽光発電についても完全否定です。

http://www.denkipodcast.com/crosstalk/archives.html
http://t.co/XyUITPT クロストークエネルギー「第23回PART2「環境問題のウソを見抜け」
製作:電気新聞 提供:電力中央研究所三菱重工業、東電工業、東電設計、東電環境エンジニアリング

日本人はクリーンなエネルギーを求めているんですよ。一番良いのは言うまでも無く原子力エネルギーなんですよ。それしかないんですよ。電気は原子力でやっていかないと。太陽光発電なんてひどいものですよ。人間が太陽の光を使うなんてむちゃくちゃですよ。自然が破壊されて、電気代が1.5倍くらいになって、ドイツは12兆円使ってきて、発電割合は0.25% くらいですよ。日本人が自然エネルギーなんかに頼ったら自然破壊なんていっぺんですね(大意のみ書き起こし)」

http://d.hatena.ne.jp/hyakubann/20110531#p1

http://d.hatena.ne.jp/NATROM/20110318#p1 武田邦彦氏の功罪 - NATROMの日記
武田邦彦氏の発信している情報は玉石混交である。正しいこと、参考になることも書いているが、明らかに誤っていることも書いてある。情報の可否を判断できない人は武田邦彦氏の主張を信用しないほうがいいと私は考える

2ちゃんねるの開設者であるひろゆきさんは、「嘘は嘘であると見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」と言われたそうです。
そういうことなのでしょう。